1ドル160円に達するほどの急激な円安が、日本の株式市場に多大な影響を与えています。円安・円高になったら、日本株にどういった影響が出てくるのか知りたい方も多いのではないでしょうか。そこで今回は、日本円の価値と日本の株式市場への影響に焦点を当てて解説していきます。日本株にどういった影響が出るのか、また円安・円高の環境下では、それぞれどういった企業が強い傾向にあるのか解説します。ぜひ参考にしていただけると嬉しいです。
- 日本株に対する円安・円高の影響について分かる
- 円安・円高のそれぞれに強い業種とは何かが分かる
- 円安・円高に強い代表的な銘柄について知れる
日本株と円安・円高の関係は?

まずは、日本の株式市場に対し日本円の為替市場が与える影響について説明します。為替市場では、日本の通貨である円と外国の通貨(米ドルやユーロなど)と需要と供給の関係で日々価格が変動しています。為替市場における円安は、日本円の価値が外国の通貨の価値に対して相対的に低い状態を言います。同じ1ドルでも、以前は100円で交換できたものが、今は160円程度出さないと交換できなくなっているイメージです。円高はその逆で、外国の通貨の価値に対して日本円の価値が相対的に高い状態をいいます。
この円安・円高が日本の株式市場に与える影響については、以下の3つが挙げられます。
- 日本企業の海外資産への影響
- 金属資源やエネルギー価格への影響
- 海外投資家から見た日本株への影響
日本企業の海外資産への影響
円安・円高の一つ目の影響として、日本企業の海外資産への影響が考えられます。円安・円高によって、日本企業が持っている海外資産の価値の業績への影響度が変わってくるということです。
例えば、海外での売上比率の高い企業の場合、海外で製品を販売して海外資産を多く稼いでいます。この時に円安の環境下であれば、より多くの日本円に換算できるので、企業の業績にとってはプラスにはたらきます。逆に、円高の環境下であればマイナスに働くということです。
各企業の決算資料には想定為替レートが記載されており、企業によっては業績を保守的に見積もるために円高方向に為替レートを設定していたりするため、チェックすべき項目だと考えています。
つまり、海外における売上比率が大きい日本企業ほど、円安・円高の影響を受けやすいということです。
金属資源やエネルギー価格への影響
円安・円高の二つ目の影響として、金属資源やエネルギー価格への影響が挙げられます。製造業で材料として使われる金属資源、化学製品や輸送用燃料として使用される石油などは日本が輸入に依存しているものの代表例です。円安環境下では、これらの資源をより多くの日本円を支払って輸入することが必要になるため、金属資源・エネルギー価格の高騰につながります。この資源価格高騰が、各日本企業が行う事業に影響をもたらします。
海外投資家から見た日本株の価値への影響
円安・円高の3つ目の影響として、海外投資家から見た日本株の価値への影響が挙げられます。日本の株式市場に対する海外投資家の存在感は強く、2023年の東証プライム市場における売買代金のデータでは、海外投資家が売買代金の約70%を占めており、日本株への影響の大きさが分かります。
引用元:日本取引所グループ 2023年投資部門別売買状況をもとに作成
海外の投資家が投資先を検討する際、円安環境下であれば日本企業の株は相対的に安く見えるので、日本株が買われやすくなりプラスにはたらきます。一方で、円高環境になれば、日本企業の株が割高に見えるので、マイナスに働きやすくなります。
つまり、円安環境であるほど海外投資家に日本株が買われやすいということです。
円安・円高に強い業種とは?

上記の内容を踏まえて、円安環境・円高環境のそれぞれに対して強い傾向にある業種について紹介していきます。円安環境下では、海外での売上比率が高く、石油などのエネルギー価格の高騰に対する業績の影響度が少ないタイプの業種の企業が強いといえます。一方で円高環境下では、日本国内での売上比率が高く、海外から原材料などを輸入して、加工・販売するタイプの業種の企業が強いでしょう。
直近の各社の決算内容をもとに、東証33業種について、円安がメリットになる業種・円高がメリットになる業種を一覧にしたイメージ図を以下に示します。

今回の記事では、円安環境下で特に強い業種3つと、円高環境下で特に強い業種3つにそれぞれフォーカスして、代表的な銘柄とともに紹介していきます。
円安に強い業種・銘柄とは?
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円安に特に強い以下の3つの業種について取り上げ、代表的な銘柄を紹介します。
- 輸送用機械
- 電気機器
- 機械
輸送用機器
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輸送用機器は、日本の主力産業であり、主に自動車の完成車メーカーや自動車部品メーカーが多数を占める業種です。自動車の完成車メーカーの売上比率は海外がほとんどを占める傾向にあり、円安が大きな業績プラス要因として働きます。また、完成車メーカに部品を供給する自動車部品メーカもその恩恵を受ける形で円安がプラスにはたらきます。
例えば、トヨタ自動車の2023年の販売台数データによると、海外での販売台数が80%を超えるほど高いです。
輸送用機器のセクターの代表的な銘柄をいくつか紹介すると、以下が挙げられます。円安環境下において、好調な業績に期待が持てます。
- トヨタ自動車(7203)
- 本田技研工業(7267)
- SUBARU(7270)
- デンソー(6902)
- アイシン(7259)
- ヤマハ発動機(7272)
電気機器
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電気機器も輸送用機器に次いで日本が強い産業であり、家電やパソコン、電子部品に至るまでのメーカがこの業種に含まれます。また、今注目を集めている半導体製造装置メーカの多くもこの業種に含まれています。こちらも日本国内よりも海外での売上比率が高い企業が多数を占め、円安環境では業績に追い風が吹く傾向にあります。例えば、ソニーグループの地域別売上高構成比率(2023年)によれば、75%以上を海外での売上が占めています。
電気機器業界の代表的な銘柄については、以下が挙げられます。こちらも円安環境下では業績の伸びに期待が持てると考えています。
- ソニーグループ(6758)
- 日立製作所(6501)
- パナソニックHD(6752)
- 東京エレクトロン(8035)
- アドバンテスト(6857)
- 芝浦メカトロニクス(6590)
- 村田製作所(6981)
- 京セラ(6971)
- 太陽誘電(6976)
機械
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機械セクターは、建設機械や工作機械など大型の機械製品を扱うメーカが含まれる業種です。建設機械や工作機械も、日本国内より海外での売上比率がほとんどを占めるタイプの製品であり、円安環境がプラスにはたらく傾向にあります。例えば、建設機械メーカの小松製作所の2019年の売上高データでは、85%以上を海外の売り上げが占めています。
機械セクターの代表的な銘柄をいくつか紹介すると、以下が挙げられます。
- 小松製作所(6301)
- 日立建機(6305)
- クボタ(6326)
- DMG森精機(6141)
- オークマ(6103)
- 牧野フライス製作所(6135)
円高に強い業種・銘柄とは?
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対して、円高に特に強い以下の3つの業種について取り上げ、代表的な銘柄を紹介します。
- 食料品
- パルプ・紙
- 電気・ガス業
食料品
食料品セクターは、皆さんが普段口にしているパンや麺類・調味料や飲料などを製造している企業が含まれている業種です。これらのメーカは、日本国内での自給率が低い小麦や大豆、油脂などを外国から輸入して加工・販売を行っています。それゆえに、円高環境であれば低コストで原材料を輸入できるので企業にとってはメリットとして働く傾向にあります。さらに、食料品セクターの企業は海外よりも国内での売り上げの比率が高い傾向にあることも、円高に強い背景になります。例として、山崎製パンの海外での売上比率は10%以下と非常に低い水準にあります。
食料品セクターにおける代表的な銘柄としては、以下が挙げられます。
- 山崎製パン(2212)
- 明治HD(2269)
- 日清製粉グループ(2002)
- アサヒグループHD(2502)
- キリンHD(2503)
- サントリー食品インターナショナル(2587)
パルプ・紙
パルプ・紙セクターは、その名の通りティッシュペーパーや印刷用紙、段ボールに至るまでの紙製品を製造するメーカが含まれている業種です。これらの企業では、紙の原料となる木材チップなどを海外からの輸入に依存しており、円高環境になった方が製造コストを抑えられるためメリットとしてはたらく傾向にあります。また、この業界においても海外よりも国内での売上比率が高い傾向にあります。
パルプ・紙セクターの代表的な銘柄としては、以下の3社が挙げられます。今後円安環境が是正され円高に向かっていく場合、これらの企業の業績にとってはプラスにはたらくでしょう。
- 王子HD(3861):nepiaブランドで有名
- 日本製紙(3863):scottieブランドが有名
- レンゴー(3941):段ボール紙で高シェア
電気・ガス業
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電気・ガス業も円高に強い業種の一つと言えます。電気・ガス業はその名の通り、国内の工場や家庭などに電気やガスを供給する企業が含まれている業種です。日本はエネルギー自給率が非常に低く、電気を発電するために必要な石油や、天然ガスの99%以上を輸入しています。そのため、日本円の価値が高くなる円高環境においては、輸入時のコストが下がり企業としてはメリットが出ます。さらには、電力会社やガス会社は、国内事業での売上がほとんどを占めていることも円高でのプラス要因になります。
電気・ガス業の主要な銘柄については、以下が挙げられます。今後円高への移行が進みエネルギー価格が下がってくれば、これらの企業にも業績上昇圧力になると考えます。
- 東京電力HD(9501)
- 関西電力(9503)
- 中部電力(9502)
- 東京ガス(9531)
- 大阪ガス(9532)
- 東邦ガス(9533)
まとめ:銘柄選択に為替影響の考慮も必要か
今回の記事では、最近の日本の株式市場の一大テーマとなっている急激な円安に関連して、円安・円高の日本の株式市場への影響と、円安・円高環境それぞれに強い企業とはどんな企業なのか、具体例を挙げて解説しました。
現在の円安環境は、海外での売上比率が高い自動車メーカや建設機械メーカなどにとっては、強力な追い風となっている一方で、エネルギーや原材料を外国からの輸入に頼っている食料品メーカや製紙企業などの内需企業にとっては、強烈な逆風が吹いている状態になっています。
今後は、日本における長期金利上昇や、海外各国における利下げの開始が想定されており、為替市場における日本円の価値の先行きに注目した銘柄選択の重要度が増してきていると考えています。今回の記事の内容を、投資先企業の検討アイテムにしていただけるとありがたいです。