株式投資において「アノマリー」という言葉をご存じでしょうか。アノマリーは、なぜなのか理由はわかっていないけれども、今までの経験則から起こりやすいといわれている株価の傾向のことです。このアノマリーを利用した投資手法もあります。
そこで今回は、日本の株式市場におけるアノマリーについていくつか取り上げて紹介します。またそのアノマリーに従って本当に株価が上昇・下落しているか調べた結果も併せて共有していきます。興味があればぜひ参考にしてみてください。
日本株の月別のアノマリーとは?
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日本の株式市場においては、以下の有名なアノマリーがあるといわれています。これらについて順番に紹介していきます。
- 1月効果
- 節分天井・彼岸底
- 4月高・こいのぼり天井
- ハロウィーン効果
- 掉尾の一振(とうびのいっしん)
1月効果
1月効果は、その名の通り1月に株価が上昇しやすいというアノマリーです。その要因として、年末に節税のために株を売る人が多く、その人たちが1月に買い戻しに走るからだと考えられています。なぜ年末に株を売ると節税になるのかというと、年末に含み損となっている株を売り、その年に株式投資で得た利益と相殺することで、株式投資で得た利益に対して払う税金を抑えられるためです。
※NISAについては、株式投資で得た利益は非課税なので、この手法は使えません。
節分天井・彼岸底
節分天井・彼岸底は、節分のある2月上旬に株価が高値を付け、3月下旬のお彼岸まで株価が下落する傾向にあるというアノマリーです。要因としては、1月効果で上昇トレンドに乗った株価が節分まで上昇を続けますが、企業決算が集中する3月末に向け決算前に売っておこうとする人が増え始め、下落に転じてしまうためだと考えられています。
4月高・こいのぼり天井
4月高・こいのぼり天井は、4月に入ってからこいのぼりが飾られる5月上旬にかけて株価の上昇トレンドが続き、その後下落に転じるというアノマリーです。この要因としては、4月から年度が替わり新たな投資資金が日本の株式市場に入ってくることが上昇圧力になり、それが5月上旬にピークを付けて下落に転じ始めるからだと考えられています。
ハロウィーン効果
ハロウィーン効果は、10月末のハロウィーンから株価が上昇しやすいというアノマリーです。その理由については、ヘッジファンドが例年手じまい売りをしやすい時期である、ハロウィーンが近づくにつれ日が短くなってくると投資家がリスク回避的になるなど諸説ありますが、未だよくわかっていません。
掉尾の一振(とうびのいっしん)
掉尾の一振は、年末の大納会に向けて株価が上昇しやすいというアノマリーです。この理由については、1月効果の項で取り上げた年末にかけての節税対策の売りが一通り終わるのが、大納会の2営業日前なので、そこからは上昇に転じるためだと考えられています。
日本株の月別アノマリーの検証
先ほど紹介した5つのアノマリーについて、本当にそういった株価の傾向があるのかどうか、2020年~2023年の24年間のTOPIXの値動きをもとに検証してみたいと思います。今回は以下2つの指標でデータを集計しました。
- 各月で株価が上昇する確率
- 各月の平均株価騰落率
2000年~2023年の各月の株価が上昇する確率は?
2020年から2023年にかけての毎月のTOPIXの始値と終値の差を基準に、月間で株価が上昇した回数・下落した回数をカウントして調査しました。各月で株価が上昇した確率をまとめたものが、以下のグラフ・表です。
1月 | 2月 | 3月 | 4月 | |
上昇した確率 | 54.2% | 54.2% | 58.3% | 58.3% |
5月 | 6月 | 7月 | 8月 | |
上昇した確率 | 58.3% | 58.3% | 50.0% | 41.7% |
9月 | 10月 | 11月 | 12月 | |
上昇した確率 | 50.0% | 58.3% | 62.5% | 62.5% |

こうしてみると、11月・12月の株価が上昇した確率が60%を超えており、株価パフォーマンスが良い傾向にあることが分かります。一方で、8月は株価が上昇した確率が約40%とパフォーマンスが悪い結果となりました。
2000年~2023年の各月の株価騰落率は?
今度は、2000年から2023年にかけての毎月のTOPIXの始値と終値の差を基準に、各月の上昇率・下落率を調査し平均騰落率を計算しました。各月の結果をまとめたものが以下の表・グラフです。
TOPIX | 1月 | 2月 | 3月 | 4月 |
平均騰落率 | -0.78% | 0.31% | 0.72% | 1.46% |
5月 | 6月 | 7月 | 8月 | |
平均騰落率 | -0.30% | 0.67% | -0.74% | -0.59% |
9月 | 10月 | 11月 | 12月 | |
平均騰落率 | -0.24% | -0.55% | 1.41% | 1.16% |

各月の株価の平均騰落率の観点で見ると、4月・11月は平均騰落率が特に高く、パフォーマンスが良い傾向にあることが分かります。一方で1月・7月は平均騰落率が低く、パフォーマンスが悪い結果となりました。
これらのデータを踏まえると、今回紹介した5つのアノマリーの信ぴょう性がありそうかまとめると以下の表になります。
アノマリー | 信ぴょう性についての考察 |
1月効果 | 1月は上昇する確率が50%に近く、信ぴょう性があるか微妙 |
節分天井・彼岸底 | 2月より3月の方が上昇する確率が高く、信ぴょう性低い |
4月高・こいのぼり天井 | 4月の平均騰落率が高く、やや信ぴょう性あり |
ハロウィーン効果 | 11月の平均騰落率が高く、やや信ぴょう性あり |
掉尾の一振 | 12月は上昇率・騰落率どちらも高く、やや信ぴょう性あり |
日本株の年別のアノマリーとは?

続いて日本の株式市場の年別のアノマリーとして、干支にまつわる有名なものがあるため、まとめて紹介します。
- 辰巳(たつみ)天井:辰年・巳年に株価が天井をつける
- 午(うま)尻下がり:午年は下落相場になる
- 未(ひつじ)は辛抱:未年は横ばいの相場
- 申酉(さるとり)騒ぐ:申年・酉年は株価の上昇・下落が激しい
- 戌(いぬ)笑い:戌年は上昇相場になる
- 亥(い)固まる:亥年は値固めの停滞相場になる
- 子(ね)は繁盛:子年は上昇相場になる
- 丑(うし)つまずき:丑年は株価が調整局面になる
- 寅(とら)千里を走り:寅年は波乱の相場になる
- 卯(う)跳ねる:卯年は上昇相場に転じる
干支の年ごとにどういった相場になるか経験則から示しているようですが、実際のところ本当にそうなっているのか次の項で検証してみます。
日本株の年別アノマリーの検証
干支にまつわる日本株のアノマリーについて、本当にそういった株価の傾向があるのか、1952年から2023年までの72年間の毎年のTOPIXをもとに調査しました。この調査についても、以下の2つの観点でデータを集計しました。
- 干支別に見た各年の株価が上昇する確率
- 干支別に見た各年の平均株価騰落率
干支別に見た各年の株価上昇率は?
1952年~2023年の期間で、毎年のTOPIXの初値・終値から、年間の株価が上昇した年・下落した年をカウントし、干支別に株価が上昇した確率を計算しました。その結果をまとめたのが以下のグラフです。
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子年 | 丑年 | 寅年 | 卯年 | |
上昇した確率 | 66.7% | 50.0% | 50.0% | 66.7% |
辰年 | 巳年 | 午年 | 未年 | |
上昇した確率 | 66.7% | 50.0% | 50.0% | 33.3% |
申年 | 酉年 | 戌年 | 亥年 | |
上昇した確率 | 83.3% | 83.3% | 66.7% | 83.3% |
この結果からすると、申年・酉年・亥年の干支の年は年間で株価が上昇する傾向が強く、反対に未年は年間で株価が下落する傾向にあるということが分かりました。
干支別に見た各年の株価上昇率は?
今度は、1952年~2023年の期間で、毎年のTOPIXの初値・終値から、毎年の年間株価騰落率を計算し、干支別に集計して年間騰落率の平均をとりました。その結果をまとめたのが以下のグラフです。

子年 | 丑年 | 寅年 | 卯年 | |
年間平均騰落率 | 20.0% | -3.9% | 3.8% | 14.6% |
辰年 | 巳年 | 午年 | 未年 | |
年間平均騰落率 | 23.6% | 9.7% | -4.7% | 8.3% |
申年 | 酉年 | 戌年 | 亥年 | |
年間平均騰落率 | 8.7% | 17.5% | 2.3% | 15.5% |
干支別の年間の平均騰落率で比べてみると、辰年・子年が年間平均騰落率が20%を超えており、好調な株価推移をする傾向にあります。一方で、丑年・午年は平均騰落率がマイナスで株価が下落する傾向にある年ということが分かりました。
今回の結果からアノマリーの話に戻ると、以下のようにまとめられます。
干支のアノマリー | 信ぴょう性についての考察 |
辰巳天井 | 辰年は平均騰落率が高いが巳年は傾向薄く、信ぴょう性があるか微妙 |
午尻下がり | 午年は年間騰落率が低い傾向があり、やや信ぴょう性あり |
戌笑い | 戌年は上昇する傾向薄く、信ぴょう性があるかは微妙 |
丑つまづき | 丑年は年間騰落率が低い傾向があり、やや信ぴょう性あり |
卯跳ねる | 卯年は年間騰落率が高い傾向がみられ、やや信ぴょう性あり |
まとめ:アノマリーは参考程度にとどめよう
今回の記事では、日本の株式市場のアノマリーについて代表的なものをいくつか解説しました。また実際に株価がその傾向に従っているのか検証してみた結果をあわせて紹介しました。アノマリーは、理由はわからないけれども、経験則から発生するといわれている株価の傾向のことです。月別のアノマリーや干支になぞらえた年別のアノマリーがあります。
過去のTOPIXのデータをもとに検証してみた結果、ある程度アノマリー通りになっていると思われる部分もありましたが、それほど顕著な傾向はみられませんでした。アノマリーは参考程度に考えるくらいでちょうどいいと考えています。